サンリックコラム

vol.02

レアメタルの話や業界のトレンド、サンリックの日常など、ざっくばらんなテーマをコラム形式で掲載していきます。不定期更新。

素材あれこれ

タンタル (Ta) が無いとスマートフォンは作れない?

2021/07/12

タンタル(tantalum)は、ウィキペディア(一部著者編集)に依れば、原子番号73の第6周期に属する第5族元素である。元素記号は Ta。タンタルの単体は比較的密度が高くて硬く、銀白色を呈し、光沢があって腐食耐性の高い遷移金属である。レアメタルの1つに数えられており合金の 微量成分等として広く用いられる他、比較的化学的に安定で融点も高く、耐火金属としても知られる。化学的に不活性な特性から、実験用設備の材料や白金の代替品として(150℃以下では、王水にも不溶)特に化学工業では有用である。

金属単体では、タングステン、レニウムについで3番目に融点(2997℃)が高い。通常、融点が高い金属は加工性も悪いが、タンタルは延性が有り室温で加工が可能である。

電子機器用タンタル電解コンデンサー(タンタル微細粉とタンタル線を使用)は、スマホやPC、EV車、ロボット等に、その堅牢性故多く使用されております。これは五酸化タンタルを誘電体とするコンデンサーです。安価な電子機器であれば、アルミ電解コンデンサーで代用できますが、より信頼性の高い電子機器には必須のデバイスです。
さて、本題のスマートフォンでは、タンタル電解コンデンサーの他に、電波を選別するRFフィルター回路が付きものですが、その一つであるSAWデバイス(弾性表面波素子)は、リチウムタンタレイト(タンタル酸リチウム)の単結晶基板に、アルミ、銀、金等の櫛形電極を形成して製作されております。何億台もあるスマホが混信しないのはこのRFフィルターのお蔭です。又、様々な機能を制御するCPU半導体のインター・コネクター(内部配線)のバリヤー層には、タンタルや、窒化タンタル(TaN)の薄膜、CVD膜が使用され、CPUの配線間の絶縁劣化を抑えて、半導体の寿命や信頼性向上に役立っております。勿論、タングステンやモリブデン等と同様に、タンタル・シリサイド(TaSix)は、半導体のゲート電極等にも利用されております。スマートフォンには、ディスプレイ・スクリーンが付いておりますが、液晶や有機ELの電極にMo-Ta合金が使われております。ITO(透明電極)への接触抵抗が小さい、ガラス基板に馴染みやすい、微細パターンの化学エッチング特性が良い等の理由です。こうしてみると、タンタルが無かったら、コンパクトで、多機能で、画像の綺麗な素敵なスマホが出来なかった事が御納得頂けると思います。

さて、タンタルの命名ですが、スェーデンの化学者、アンデシュ・グスタフ・エーケベリ(Anders Gustav Ekeberg)によって、1802年発見されました。元素の発見者の多くは、英国、ドイツ、フランス、米国等を連想しがちですが、スェーデンは、モリブデンタングステン等も含めて24元素を発見しております。ちなみに日本では、ニホニウム一つだけです。元素名はギリシャ語、ラテン語を起源とするものが多く、ギリシャ神話の登場人物に因んでつけられたものが多くあります、タンタルもその一つで、リュディア(現在のトルコ)の王、タンタロスに因んでつけられたものと言われております。又、タンタロスの娘、ニオベーに因んで、ニオブ元素の命名も有ります。タンタルニオブは、タンタル石、コルンブ石等の鉱物から、分離されておりましたので、ニオブは英米では、1949年まで、コロンビウムと呼ばれていました。タンタルとニオブは、非常に似た性質を持っておりますので分離精製が難しく、高純度のタンタルやニオブの純金属が利用出来る様になったのは、発見から大分後の事でした。

ここで、スマートフォン以外にも、タンタルのユニークで優れた物理的、化学的、電気的特性が、いかに多くの先端技術で応用されているかをご紹介させて頂きます。化学工業には、多くの腐食性物質が必要ですが、これらの反応容器、撹拌用シャフトやプロペラ、配管、温度制御や省エネの為の化学プラント用熱交換器等は、常温加工性、溶接性(但し、不活性ガス雰囲気熔接;TIG)、そして優れた耐食性及び耐熱性が必要で、且つ経済性を備えた(白金等の貴金属と比較して)素材は、タンタルを除いて他にはありません。他の金属では、単一ではこれらの要求を満たすことは出来ません。

タンタルは耐食性以外に、チタン等と共に、高い生体とのコンパティビリティーが有る為、人口歯根や人工骨の素材として応用されております。AM(アディティブ・マニュファクチュアリング)による、Ta-Nb人口骨は、個体差に応じた最適形状の製造を非常にコンパクトな設備で製造可能であり、米国の形成外科病院等には、これらのAM装置が備わっております。

タンタルは、半導体やディスプレイデバイスの材料としてだけでなく、半導体製造装置や、ディスプレイ製造装置に、多用されております。これら電子デバイスの製造装置は、装置素材からのコンタミネーションを避ける必要が有り、又装置内に投入される物質に対して耐食性が無ければなりません。その為、高真空でも、揮発しにくい(蒸気圧の低い)素材が必要で、タンタルは、半導体・電子部品製造装置の構造部材、ヒーター、容器、蒸着材ボート等に利用されております。

タンタルは、ジルコニウム等と同様に、ゲッター材(気体を吸収する性質)が有り、真空中の不純物ガスを吸収し脆化する性質が有ります。高温では、酸素と反応し、水素、窒素を吸収して脆化しますので注意が必要です。これらの吸蔵不純物ガスは、真空中で焼鈍する事によって取り除く事が出来ます。水素は800°C、窒素は1700°Cで除去されます。

耐熱金属の多くは(レニウムを除く)、炭素、窒素、ホウ素等と反応して、炭化物、窒化物、硼化物等非常に硬い化合物を形成致します。炭化タンタルはダイヤモンドに次ぐ硬さで、超硬工具やサーメット等の切削工具の添加物や、ハードコーティング材料とし工業的に利用されております。

タンタルは、良好な加工性、高強度、耐久性、延性、高耐食性、熱伝導性、および高融点等の優れた特性を持ち、これ等の特性を必要とする、化学工業、薬品製造、航空宇宙、エネルギー機器、軍需用等の様々な用途の合金に利用されております。
例えば、タービン用合金(Ta 3~11%含有)(ブレード、ベーン、ディスク)、ロケットノズル・ロケット推進体、ノーズキャップ(超音速機)、合成繊維紡糸用ノズル、医療用蛍光体など、用途の枚挙にいとまが有りません。
弊社は、タンタルの曲げ加工、タンタルのプレス加工、打ち抜き加工、溶接加工等、少量多品種生産及びマスプロダクションに対応した製造設備機器を保有しております。

最後になりますが、スズタンタルタングステン及び金の含有鉱物は、生産地域によっては、紛争地域産出のもの(例えば、コンゴ民主共和国(DRC)の東部)となり、紛争鉱物の規制対象となります。又、密輸等により、武器購入の資金源となり、人権を著しく阻害することになり、国連の制裁対象となりますが、弊社はこれら紛争に関与しない安全なソースからの素材購入を徹底して、お客様にご提供させて頂いております。

(顧問 郷)

真空炉・炉製品

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